ミッションクリティカルなシステムでは、普通は何らかの冗長構成を採って、サーバーが一台落ちたりハードディスクが一個壊れたりしても何ともないようになっている。落ちたら困る度合いに応じてお金を掛けて、一台ですむところを冗長化したりその他の安全のための工夫をしている。まあ、何てことない普通の話だと思う。
プログラマとして藤井聡教授の『列島強靭化論』を読むと、こうした冗長化などの考えを日本の国土に対して適用し、「日本」というシステムの Availability(可用性)を高めようというアイデアが見えてくる。ついこの間、自民党の国土強靭化基本法案が提出されたところなので、元ネタと思われるこれを読んでみた。
システム開発者として意訳すると、曰く、日本というシステムは言うまでもなく日本人にとってもの凄くクリティカルなのだけど、にもかかわらずアーキテクチャとして余りにも脆弱である。ここで、もちろん Single Point of Failure は東京圏なわけだけど、30年以内に直下型地震が 70%以上の確率で起きる事が既に分かっている。
異音を立て始めたハードディスクを何の冗長化もなくミッションクリティカルなシステムに使ってるようなもので、これは恐ろしい。
つうわけで、東京に集まっている経済機能、都市機能を、太平洋ベルトに入らない日本海側や九州、北海道の諸都市にも分散しようという話だけど、システム屋ならすんなり納得できるんじゃないだろうか。クリティカルなシステムに冗長性を与えようって話だから、むしろ言われる前にやっておけと。
しかも藤井教授によると、そのためのインフラ整備の公共事業がデフレ・ギャップ解消/経済成長にも役立つから一石二鳥。それに先立つ東北の復興も加えると一石三鳥という事になる。10年で200兆って事だけど、通読するとそれほど法外なお金じゃない事も分かり易く説かれている。
(藤井教授はデフレ解消をもの凄く重視しているけど、この辺りは学者によって賛否両論あるらしい。自分は藤井教授の考えに一理あると思う。まあ、新聞なんかでは単に「公共事業は悪」ってイメージだけの批判もあったようだけど、そういうのは論外。)
震災直後の1ヶ月で書き上げたとの事で、妙に臨場感があって、読むと当時の気分が蘇ってくる。
終章が面白い。もしも日本人が本書で提示された「強靭化」を日本の国土に対して施さなかった場合、この「不作為の罪」によって、どんな風に日本が終わってしまうかというストーリーが提示というか予言されている。これがもの凄くリアル。
発行から1年以上たった今、デフレ下では絶対ダメと本書で厳禁されていたはずの消費増税も肯定されてしまいそうな勢いだし、TPPも交渉参加だし、これは悪い方の予言が当たって、「30年以内に70%の確率」で日本終了のお知らせって事になっちゃうかもしれん・・・
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